空き家の相続放棄はこうする!費用から手続き方法までプロが徹底解説

1.相続放棄とは

遺産全体を放棄する制度の概要

相続放棄とは、故人から相続される遺産全体を放棄する制度です。相続人は遺産を承継するかどうかを選択できますが、一旦相続を承認すると、故人の債務も相続してしまいます。

このため、相続放棄を選ぶメリットは以下の通りです。

  • 故人の債務を相続することがない
  • 遺産整理の手間が省ける

一方、主なデメリットは次のようになります。

デメリット内容
遺産の権利を失う不動産や預貯金など、財産権を失う
生命保険金の請求権を失う故人を被保険者とする生命保険金の受取権利を失う

このように、遺産全体を放棄することで、メリット・デメリットの両面があります。状況に応じて判断する必要があります。

メリットとデメリット

相続放棄のメリットとしては、借金など債務の引き継ぎを回避できる点が挙げられます。遺産に含まれる不動産や預貯金などのプラス資産がない場合、むしろマイナスとなる可能性があります。そういった状況であれば、相続を放棄することで債務の連帯責任を免れることができます。

一方、デメリットとしては以下の点が挙げられます。

デメリット内容
機会損失将来的に遺産の価値が上がった際の得られる利益を失う
後々の相続権の放棄今回の相続を放棄すれば、将来的に同一の遺産に係る相続権も失う
手続きの手間放棄するための手続きが必要となる

特に相続財産の中に価値があると見込まれる不動産などが含まれている場合は、慎重に検討する必要があります。状況に応じて専門家に適切に相談することが賢明です。

2.空き家の相続放棄をしても管理義務は残る

占有している不動産の管理義務は残る

相続放棄をしても、相続放棄時に占有していた不動産の管理義務は残ります。相続放棄は遺産全体を放棄する制度ですが、占有している不動産については別の扱いになるのです。

占有している不動産を適切に管理しなかった場合、以下のようなリスクがあります。

  • 第三者に損害を与えた場合の賠償責任発生
  • 行政から是正勧告や過料などの制裁措置

例えば、空き家の管理を怠り、倒壊して隣家を損壊させた場合は、損害賠償請求を受ける可能性があります。

リスク内容
損害賠償第三者に損害を与えた場合の賠償責任
行政措置是正勧告や過料などの制裁措置

つまり、相続放棄をしても占有不動産の適切な管理は欠かせません。空き家の管理には十分注意を払う必要があります。

適切に管理しなかった場合の責任と損害賠償リスク

空き家の相続放棄をした場合でも、現に占有している不動産については適切な管理が義務付けられています。例えば、次のような管理義務違反があれば、損害賠償責任を問われる可能性があります。

管理義務違反の例リスク
空き家の雨漏りなどにより、隣地に被害が及んだ場合隣地所有者からの損害賠償請求
空き家が老朽化して外壁が剥がれ落ち、通行人にけがをさせた場合通行人からの損害賠償請求
空き家に不審者が侵入し、火災が発生した場合消防法違反や、火災延焼による周辺への損害賠償責任

このように適切な管理を怠れば、占有者責任として高額の損害賠償を求められるリスクがあります。相続放棄をする場合は、この点に十分注意しましょう。

3.2023年の法改正で管理義務が一部緩和

「現に占有している」者のみが管理義務を負う

2023年、不動産の管理義務については改正が行われました。

改正前は、相続放棄をしても相続した不動産については管理義務があり、占有の有無に関わらず、適切な管理を怠れば損害賠償責任を負う可能性がありました。

改正前改正後
相続した不動産の管理義務あり「現に占有している」不動産のみ管理義務あり
占有の有無は関係なし占有していない不動産は管理義務なし

改正後は、「現に占有している」不動産についてのみ、適切な管理義務があります。占有していない不動産については、管理義務を負うことはありません。

また、従来の「管理義務」は「保存義務」に文言を改められました。保存義務とは、通常有するべき状態を保持することを意味し、改正により義務内容が明確化されています。

ただし、「現に占有している」不動産については、引き続き適切な管理が求められますので、注意が必要です。

「管理義務」が「保存義務」に呼称変更

2023年の民法改正により、空き家の相続放棄後の義務が変更になりました。従来は「管理義務」と呼ばれていましたが、新しくは「保存義務」という呼称に変更されています。

呼称が変わった背景には、従来の「管理義務」という言葉が曖昧で広範囲にわたるため、義務の内容を明確化する必要があったことがあります。

従来の「管理義務」新しい「保存義務」
広範な内容が含まれる義務の範囲が限定される
占有の有無に関係なく義務がある占有していない場合は義務がない

つまり、空き家を実際に占有していない相続人は、相続放棄後に「保存義務」を負うことはありません。ただし占有している場合は、適切な保存が求められます。

4.空き家の管理義務から離れる方法

他の相続人に引き継ぐ

空き家を相続したくない場合、他の相続人に管理義務を引き継いでもらうことができます。この方法の大きなメリットは、自身の負担なく空き家の管理義務から解放されることです。

ただし、以下の3点に留意が必要です。

  1. 他の相続人の同意が必須
  2. 相続人全員で合意する必要がある
  3. 引き継ぎ先の相続人の経済的余裕や維持管理能力の確認が重要

引き継ぎ先として適切な相続人がいない場合は、次の選択肢として家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることになります。

項目内容
メリット自身の負担なく管理義務から解放される
デメリット他の相続人全員の同意が必要
引き継ぎ先の維持管理能力の確認が重要

相続財産である空き家の管理義務は、相続人全員に等しく課されています。他の相続人に引き継ぐ際は、慎重に検討し、全員の合意を得ることが不可欠です。

家庭裁判所で相続財産清算人を選任する

空き家の管理義務から解放される1つの方法として、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることができます。

相続財産清算人とは、相続財産の管理や換価、債権債務の整理など、相続財産に関するあらゆる事務を行う者です。相続人に代わって財産の処分を進めてくれるため、相続人自身が管理義務を負うことはありません。

申立人は、原則として相続人の全員の同意が必要です。 ただし、やむを得ない場合には一部の相続人の申立てで選任することも可能です。

選任の申立てに当たっては、以下の書類を家庭裁判所に提出する必要があります。

  • 相続財産清算人選任申立書
  • 戸籍謄本や住民票の写し
  • 相続関係を証する書面(遺産分割協議書など)
  • 財産目録

家庭裁判所に支払う費用は、財産の評価額に応じて変動します。おおよその目安は以下の通りですが、詳細は裁判所に確認が必要です。

財産評価額申立手数料
100万円未満4,000円
100万円以上1,000万円未満8,000円
1,000万円以上1億円未満16,000円

このように、相続財産清算人を選任することで、相続人自身が直接空き家の管理を行う必要がなくなる利点があります。

5.相続財産清算人の選任手続きと費用

選任の申立て方法

相続財産清算人の選任は、家庭裁判所への申立てによって行われます。申立ての方法は以下の通りです。

  1. 申立書の作成
    • 申立書には、以下の事項を記載する必要があります。
      • 申立ての趣旨と事由
      • 被相続人の氏名、死亡の年月日、最後の住所
      • 相続人の氏名、住所、被相続人との続柄
      • 被相続人の財産の概要
  2. 添付書類の準備
    • 戸籍謄本や住民票の写しなどの添付書類が必要です。
  3. 申立手数料の納付
    • 申立手数料は財産の種類や価額によって異なります。
財産の種類価額の区分手数料
動産50万円以下1,000円
不動産300万円以下6,000円
不動産300万円超1万円
  1. 家庭裁判所への提出
    • 上記書類を住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。

家庭裁判所で審理が行われ、適切な者が相続財産清算人として選任されます。

家裁に支払う費用の目安

相続財産清算人の選任申立てに係る費用は、以下のとおりです。

財産総額手数料
50万円以下10,000円
50万円超~300万円以下財産総額の5%
300万円超~1,000万円以下15,000円に財産総額の4%を加算した額
1,000万円超35,000円に財産総額の3%を加算した額

また、上記の手数料に加え、収入印紙代(収入印紙は手数料の約4割相当)や書類の郵送料などの実費も必要となります。

さらに、相続財産清算人への報酬も発生します。報酬額は、清算事務の内容や難易度によって家庭裁判所が決定しますが、一般的には財産総額の3~5%程度が目安とされています。

このように、相続財産の規模によっては費用負担が重くなる可能性があるため、早期の相談が賢明です。

6.空き家の相続放棄を検討する際の判断基準

空き家の状況と今後の活用可能性

空き家の相続放棄を検討する際は、その空き家の現状と今後の活用可能性を十分に見極める必要があります。

たとえば以下のような点に注目しましょう。

  • 建物の老朽化の度合い
  • 立地条件(住宅地か商業地か、交通の利便性など)
  • 修繕費や解体費用の見積もり
  • 近隣への影響(景観、防犯面など)
空き家の状況留意点
建物が古く大規模修繕が必要修繕費用が高額になる可能性
立地条件が良好売却や賃貸が検討できる
解体費用が高額解体費用の捻出が負担に
住宅密集地にある近隣トラブルのリスクが高い

このように空き家の状況次第で、売却や賃貸、解体など、様々な選択肢が考えられます。相続放棄の是非を判断する前に、空き家の実情を冷静に見極めることが大切です。

固定資産税など継続的な費用発生

空き家を相続しても放棄しない場合、固定資産税をはじめとする継続的な費用が発生します。 固定資産税は毎年納付が必要で、その金額は土地や建物の評価額に応じて異なります。

また、空き家の管理費用として、草取りや害虫駆除などの維持費がかかることも覚悟しなければなりません。 このように、空き家を相続した場合には、継続的な経費の発生に備える必要があります。

他の選択肢(売却、賃貸、寄付、国への納付など)

空き家の相続を放棄するかどうかを判断する際、他にも以下のような選択肢があります。

売却 空き家を不動産業者や個人に売却する方法です。現金化できるメリットがありますが、売却に伴う手続きや費用がかかります。

賃貸
空き家を賃貸用の物件として活用する方法です。継続的に家賃収入を得られるメリットがありますが、適切な管理と修繕が必要となります。

選択肢メリットデメリット
売却現金化できる手続き・費用がかかる
賃貸家賃収入が得られる管理・修繕が必要

寄付
空き家を自治体や公益団体に寄付する方法もあります。相続税の控除対象になることがメリットです。

国への納付
最終的に国に納付することで、相続税の課税対象から除外することができます。

いずれの選択肢も一長一短があるため、空き家の状況や自身の意向に合わせて検討する必要があります。

7.相続放棄の手続きの流れと注意点

期限、他の相続人への配慮

相続放棄には一定の期限があります。期限を過ぎると放棄できなくなるため、注意が必要です。

相続債務が確定した時期相続放棄の期限
被相続人が死亡した時死亡の日から3か月以内
相続債務が確定した時債務が確定した時から3か月以内

また、他の相続人がいる場合は、相続放棄の意思を通知する義務があります。通知を怠ると、放棄の効力が否定される可能性があります。

通知方法には、以下のようなものがあります。

  • 公証役場で公正証書を作成
  • 内容証明郵便での通知
  • 直接面談して説明

他の相続人への配慮を欠いた場合、将来的にトラブルの原因となる可能性もあります。相続放棄は慎重に進める必要があります。

一旦放棄すると撤回が困難

相続放棄の申述は、一度提出してしまうと撤回することが極めて困難です。相続放棄は法定期間内に家庭裁判所で申し述べなければ効力を生じませんが、申述した後に撤回したい場合、次の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 申述から3年以内であること
  2. 相続債務超過の事実がなかったこと
要件内容
3年以内相続放棄の申述から3年以内であれば、撤回が認められる可能性がある
相続債務超過がない放棄理由が「相続債務が多額で受け継げない」というものであれば、実際に債務超過でなかった場合に撤回が認められる

このように、相続放棄の撤回には厳しい要件が課されています。したがって、一旦放棄してしまえば撤回は極めて難しくなるため、慎重に検討する必要があります。仮に、放棄を後悔しても簡単に取り消せない点に注意が必要です。

8.まとめ

空き家の適切な管理が重要

空き家を放置すると、建物の老朽化が進み、外壁や屋根の剥がれ、庭の雑草の繁茂など、周辺の環境に悪影響を及ぼします。最悪の場合、建物が倒壊するなどして通行人に危害を加える恐れもあります。

適切に管理されない空き家は、地域の治安や景観を損ねる「空家等」と位置付けられ、所有者には以下のような義務が課されます。

義務内容
適切な管理義務建物の保守管理、庭の手入れなど
助言・指導への従う義務市区町村から指導を受けた場合は従う
勧告・命令に従う義務勧告・命令があれば、適切な管理を行う

空き家を放置すると、最終的には行政から代執行の上、多額の費用を請求される可能性もあります。空き家の相続放棄を検討する際は、このような義務と費用負担リスクを考慮する必要があります。空き家の適切な管理は、相続人の重要な責務なのです。

専門家に早めに相談することが賢明

空き家の相続放棄は、多くの注意点があり手続きも複雑です。そのため、専門家に早めに相談することをおすすめします。

専門家の主なメリットは以下の通りです。

メリット内容
1. 的確なアドバイス空き家の状況や費用対効果を踏まえ、最適な選択肢を提案してくれます。
2. 手続きのサポート相続放棄の手続きは複雑ですが、専門家なら適切にサポートしてくれます。
3. トラブル回避法律の解釈の違いや手続き漏れによるトラブルを未然に防げます。

専門家として、以下のような方々が考えられます。

  • 司法書士
  • 行政書士
  • 税理士
  • 弁護士

空き家の状況やご自身の事情に応じて、適切な専門家に相談するとよいでしょう。早期の相談で、円滑な手続きと将来のトラブル回避が期待できます。