空き家3000万円控除、改正でどうなる?適用条件と活用事例をわかりやすく解説

1. はじめに:空き家問題と3000万円控除の関係を簡単に説明

日本全国で社会問題となっている空き家問題。少子高齢化や人口減少を背景に、その数は年々増加傾向にあります。 総務省の「住宅・土地統計調査」によると、2018年時点で全国の空き家数は849万戸にのぼり、空き家率は13.6%と過去最高を記録しました。 これは、実に7戸に1戸が空き家となっている計算です。

総住宅数(万戸)空き家数(万戸)空き家率(%)
2008年5,98375712.6
2013年6,06382013.5
2018年6,24284913.6

出典:総務省「住宅・土地統計調査」

空き家の増加は、景観の悪化、治安の悪化、防災上のリスクなど、様々な問題を引き起こします。 そこで、国は空き家の発生を抑制し、有効活用を促進するために様々な対策を講じています。

その中でも注目されているのが、「空き家3000万円控除」です。 これは、一定の条件を満たす空き家を売却したり、譲渡したりした際に、所得税や住民税が控除される制度です。 この制度を活用することで、空き家の売却や活用が促進され、空き家問題の解決に繋がると期待されています。

次の章では、この「空き家3000万円控除」について詳しく解説していきます。

2. 空き家3000万円控除とは?

2-1.制度の概要と目的

空き家3000万円控除とは、正式名称を「被相続人居住用家屋等撤去推進特別控除」といいます。

これは、一定の条件を満たす空き家を相続し、売却あるいは賃貸する場合に、譲渡所得または賃貸収入から最大3,000万円を控除できるというものです。

控除対象控除額
譲渡所得最大3,000万円
賃貸収入最大3,000万円

この制度の主な目的は、増加する空き家の発生を抑制し、有効活用を促進することにあります。

具体的には、

  • 空き家の流通を活性化させること
  • 老朽化した空き家の除却を促すこと
  • 空き家対策による地域活性化を図ること

などを目指しています。

2-2.適用条件:改正後の要件を詳しく解説

2-2-1.相続した空き家であること

空き家3000万円控除を受けるためには、いくつか適用条件があります。 その中でも重要な要件の一つが、「相続した空き家であること」です。 具体的には、以下のいずれかに当てはまる必要があります。

要件説明
被相続人の居住の用に供されていた家屋であること被相続人が生前、実際に住んでいた家屋である必要があります。賃貸住宅や別荘などは対象外となります。
相続開始の直前において、被相続人以外の人が住んでいないこと相続開始の直前には、被相続人以外の家族や第三者が居住していないことが条件です。ただし、老人ホームなどへの入居のため一時的に不在になっている場合は、空き家とはみなされず、控除の対象となります。

これらの要件を満たさない場合は、空き家3000万円控除の対象外となります。 例えば、親が所有していた賃貸物件を相続した場合、相続した時点では誰も住んでいない空き家であっても、控除を受けることはできません。

2-2-2.耐震性などの要件を満たすこと

空き家3000万円控除を受けるためには、相続した空き家が一定の耐震性を満たしている必要があります。

具体的には、下記のいずれかの基準を満たしている必要があります。

基準内容
新耐震基準昭和56年6月1日以降に建築確認を受けた建物であること。
耐震基準適合証明書建築士などの専門家による耐震診断を受け、現行の耐震基準に適合していることを証明する書類が発行されていること。
耐震改修工事の実施耐震改修工事を実施し、その内容が所定の基準を満たしていること。

これらの基準を満たさない空き家は、控除を受ける前に耐震改修工事を行う必要があります。なお、耐震改修工事には費用がかかりますが、自治体によっては補助金制度を設けている場合があるので、事前に確認しておきましょう。

2-2-3.特定の期間内に譲渡すること など

空き家3000万円控除を受けるためには、相続した空き家を一定期間内に売却する必要があります。

具体的には、以下の表の通り、相続の開始があった日、つまり被相続人が亡くなった日などによって譲渡期限が異なります。

相続開始日譲渡期限
2023年4月1日以前3年以内
2023年4月1日以降~2026年3月31日5年以内
2026年4月1日以降3年以内

譲渡期限が延長されている期間に相続が発生した場合でも、期限内に譲渡できない場合には、控除を受けることができませんので注意が必要です。

また、「譲渡」とは、売却だけでなく、以下のような場合も含まれます。

  • 贈与
  • 交換
  • 法人への現物出資

譲渡期限については、場合によっては延長が認められるケースもあります。詳細については、税理士などの専門家にご相談ください。

2-3.控除額と計算方法:具体的な計算例も交えて

空き家3000万円控除では、控除額は、譲渡所得の金額から控除限度額までの金額となります。控除限度額は、原則として3,000万円です。ただし、以下の計算式で算出される金額が3,000万円よりも少ない場合は、その金額が控除限度額となります。

計算式
控除限度額 =(譲渡価格 – 取得費 – 譲渡費用)× 1/3

(計算例)

例えば、相続した空き家を5,000万円で売却し、取得費が2,000万円、譲渡費用が100万円だった場合の控除額は以下のようになります。

  1. (譲渡価格 – 取得費 – 譲渡費用)= 5,000万円 – 2,000万円 – 100万円 = 2,900万円
  2. 2,900万円 × 1/3 = 966万6,666円
  3. 控除限度額(3,000万円)> 966万6,666円

上記計算の結果、控除限度額は966万6,666円となります。

このように、空き家3000万円控除を活用することで、空き家の譲渡によって発生する税負担を軽減することができます。

3. 改正で何が変わった?

3-1.改正の背景:制度の課題と改正の狙い

空き家3000万円控除は、深刻化する空き家問題の解決を図るために導入されました。しかし、制度開始から時間が経過するにつれ、いくつかの課題が指摘されるようになりました。

課題内容
適用条件の厳しさ要件が厳しいため、控除の対象となる空き家が限られていた。
制度の認知度の低さ制度の存在を知らずに、活用できていないケースが見受けられた。
効果の限定性空き家の増加に歯止めをかけるほどの効果は出ていなかった。

これらの課題を踏まえ、制度の利用促進と空き家問題への効果的な対策を目指し、改正が行われることとなりました。改正の狙いは以下の通りです。

  • 適用要件の緩和による、控除対象の拡大
  • 手続きの簡素化による、利用者の負担軽減
  • 周知徹底による、制度の認知度向上

これらの改正によって、より多くの空き家の流通が促進され、効果的な空き家対策となることが期待されています。

3-2.主な改正点:具体的にどのような変更があったのか

空き家3000万円控除は、制度開始以来何度か改正が行われてきました。ここでは、特に大きな影響を与えた改正点について解説します。

改正点内容施行日
譲渡期間の延長控除の適用を受けるために必要な空き家の譲渡期限が、従来の「相続開始から3年以内」から**「相続開始から5年以内」**に延長されました。令和2年4月1日
耐震性に関する要件の追加築40年以上の空き家を譲渡する場合、耐震基準適合証明書の交付を受けるか、**インスペクション(住宅診断)**の実施と結果の報告が義務付けられました。令和2年4月1日

これらの改正は、空き家の売却を検討する人にとって、より利用しやすい制度となることを目指しています。譲渡期間の延長は、空き家の売却準備に必要な時間を確保しやすくなるメリットがあります。一方、耐震性に関する要件の追加は、安全な住宅の流通を促進する狙いがあります。

3-3.改正による影響:メリット・デメリットをわかりやすく

空き家3000万円控除の改正は、利用者にとってメリットとデメリットの両面をもたらします。

メリットデメリット
より多くの人が控除を受けやすくなった要件が厳格化された部分もある
空き家の有効活用を促進する効果が期待される制度の利用が複雑になった可能性も

改正によって適用対象が拡大された点は大きなメリットと言えるでしょう。しかし、その一方で、新たな要件が追加されたことにより、制度の利用が以前より複雑になったという側面も否めません。

空き家3000万円控除を利用する際は、自身の状況に改正点がどのように影響するのかを事前にしっかりと確認することが重要です。

4. 空き家3000万円控除の活用事例

4-1.ケーススタディ:相続した空き家の売却

ここでは、実際に相続した空き家を売却するケースを想定し、空き家3000万円控除がどのように適用されるのかを見ていきましょう。

例えば、以下のような状況を考えてみます。

条件内容
相続した空き家の評価額5,000万円
売却価格4,000万円
売却にかかった費用(仲介手数料など)300万円

この場合、売却益は 4,000万円(売却価格)- 300万円(売却費用)- 5,000万円(評価額)= -1,300万円 となり、売却損が出ます。

通常であれば、売却損は所得から控除することはできません。しかし、空き家3000万円控除を適用すると、この売却損1,300万円と空き家3000万円控除の限度額である3,000万円を比べて、低い方の金額である1,300万円が所得から控除されます。

その結果、所得税や住民税の負担が軽減されることになります。

4-2.ケーススタディ:空き家のリフォーム後の活用

空き家をリフォームして活用する場合でも、3000万円控除の適用を受けることができます。ここでは、親から相続した空き家をリフォームして賃貸住宅として活用するケースを例に解説します。

項目内容
物件親から相続した築30年の空き家
リフォーム内容耐震改修、バリアフリー化、内装リフォームなど
リフォーム費用1,500万円
賃貸収入月額10万円

このケースでは、相続した空き家をリフォームして賃貸住宅として活用することで、家賃収入を得ることができます。また、3000万円控除を利用することで、譲渡所得税の負担を軽減できます。

ただし、リフォーム費用によっては、控除額が上限に達しない場合や、賃貸経営に伴うリスクも考慮する必要があるため、事前にしっかりと計画を立てておくことが重要です。

4-3.注意点:控除を受ける際の注意点や落とし穴

空き家3000万円控除は、適用条件を満たせば大きな節税効果が期待できます。 しかし、手続きを誤ると控除を受けられない可能性もあるため注意が必要です。

注意点内容
適用条件の確認を徹底要件を満たしていない場合、控除を受けられません。事前に詳細を確認しましょう。
提出書類の準備必要な書類を期日までに提出しましょう。
専門家への相談不安な点があれば、税理士や不動産会社などに相談することをおすすめします。

例えば、建物の状態によっては、耐震改修工事が必要になる場合があります。 また、譲渡期限内に買い手が見つからない場合、控除を受けられない可能性もあります。 事前にしっかりと準備しておくことが大切です。

5. まとめ:空き家3000万円控除を活用する際のポイント

空き家3000万円控除を活用する際は、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 適用条件の確認を徹底する

 改正により適用条件が変更されている可能性もあるため、必ず最新の情報を確認しましょう。

  • 余裕を持った準備と手続き

 相続や売却などの手続きには時間がかかる場合があるため、余裕を持って準備を行いましょう。

  • 専門家への相談

 税金や不動産に関する専門知識を持つ、税理士や不動産会社に相談することで、より有利に制度を活用できる可能性があります。

ポイント詳細
適用条件の確認最新の要件を満たしているか、自治体や専門家に確認しましょう。
余裕を持った準備と手続き相続登記や譲渡手続きなど、事前に必要な手続きを把握し、余裕を持って行動しましょう。
専門家への相談税理士や不動産会社などに相談し、個別状況に最適な活用方法を検討しましょう。

これらのポイントを踏まえ、空き家3000万円控除を有効活用して、空き家問題の解決や資産の有効活用につなげましょう。

6. 相談先:専門家への相談窓口の紹介

6-1. 税理士

空き家3000万円控除は、適用条件や計算方法が複雑なため、税理士に相談するのがおすすめです。税理士は、税務の専門家として、以下のようなサポートを提供してくれます。

サービス内容説明
控除適用可否の判断個別状況に基づき、控除の適用が可能かどうかを判断します。
必要書類・手続きの案内控除を受けるために必要な書類や手続きについて、わかりやすく案内します。
申告書の作成サポート正確な申告書を作成し、税務署への提出をサポートします。
その他税金対策の提案空き家3000万円控除以外の税金対策についても、総合的なアドバイスを提供します。

税理士に相談することで、手続きの負担を軽減できるだけでなく、より有利な形で空き家3000万円控除を活用できる可能性があります。

6-2. 不動産会社 など

空き家の売却や活用を検討する際、不動産会社に相談することも有効な手段です。

相談内容例メリット
空き家の査定依頼現在の市場価値を把握できる
売却活動の依頼購入希望者を探し、売買契約から引き渡しまでをサポートしてくれる
リノベーションやリフォームの提案・施工会社紹介空き家の活用方法を広げ、付加価値を高めることができる

ただし、不動産会社によって得意分野や専門知識は異なります。事前に複数の会社に相談し、比較検討することが大切です。