はじめに
空き家の所有者が売却を躊躇する主な理由は、複雑な相続関係や権利関係にあります。相続手続きが煩雑で、相続人全員の同意が得られないケースも多いのが実情です。さらに、遠隔地にある空き家の管理が難しく、解体や売却に伴う費用負担を敬遠する所有者も少なくありません。このように、様々な障壁が空き家の有効活用を阻害している状況です。
1.空き家を売らない主な理由
(1)相続問題や権利関係の複雑さ
空き家を売却しない大きな理由の一つに、相続問題や権利関係の複雑さがあります。
多くの空き家は、相続を経て複数の相続人が権利を持つことになります。しかし中には、
- 相続人の所在が分からない
- 相続人同士の確執がある
- 遺産分割協議がまとまらない
などの理由で、売却に関する合意形成ができないケースが少なくありません。
権利者の状況 | 発生しがちな問題 |
---|---|
所在不明者がいる | 権利者全員の同意が得られない |
相続人間で確執がある | 処分方針での対立が生じる |
遺産分割が不調 | 権利移転ができない |
こうした権利関係が複雑になればなるほど、空き家の売却は難航します。権利関係を整理することが、空き家の適切な処分につながります。
(2)遠方にあり管理が困難
空き家が遠方にある場合、その管理が非常に困難になります。
例えば以下のような問題が考えられます。
- 定期的な見回りが難しく、空き家の状態を把握できない
- 草木の伸びすぎや雨漏りなどのトラブルに気づきにくい
- 遠方からの移動費用がかさむ
- 管理業者に任せると、さらに費用が嵩む
距離(km) | 年間移動費(概算) |
---|---|
50 | 3万円 |
100 | 6万円 |
200 | 12万円 |
このように、遠方の空き家は維持管理費が馬鹿になりません。また、遠方ゆえに空き家管理の手が行き届かず、老朽化が進行してしまう恐れがあります。
遠方の空き家を適切に管理するには、費用面と手間の両面で大きな負担がかかります。そのため、空き家を売却するか、賃貸化するかの検討が不可欠です。
(3)解体や売却に伴う費用負担を嫌う
空き家を処分する際、多くの所有者が費用面での負担を気にかけています。売却や解体にかかる費用は案外高額になることがあり、それが空き家問題の解決の妨げとなっているのです。
具体的には、以下のような費用がかかります。
- 解体費用
- 跡地の更地化費用
- 不動産仲介手数料
- 固定資産税など
老朽化が進んだ空き家の場合、解体費用だけでも100万円を超えることもあり、所有者の負担は重くのしかかります。
費用の種類 | 概算費用 |
---|---|
解体費用 | 100万円以上 |
更地化費用 | 20万円程度 |
仲介手数料 | 売却価格の3~6% |
このように処分に多額の費用を要することから、所有者が手を付けられずにいる現状があります。しかし、放置を続ければ空き家は老朽化が進み、結果的にさらに費用がかさむことになります。早期の対策が賢明な選択と言えるでしょう。
(4)名義変更の手続きが面倒
空き家の所有者が亡くなった後、相続人が名義変更手続きを行わないと、空き家を売却したり賃貸に出したりすることができません。しかし、手続き自体が面倒で複雑なため、放置される例が多くあります。
名義変更には以下の3つの手順が必要となります。
- 相続人確定
- 相続税の申告・納税
- 不動産の名義変更登記
特に相続人が複数いる場合、全員の同意が必要になるため、手続きに時間がかかります。また、相続税の計算や名義変更の登記申請手続きなど、知識が必要で専門家に依頼しなければならず、費用もかさみます。
さらに、名義変更手続きが済んでも空き家の処分方法を検討する必要があり、売却や賃貸の媒介、解体工事の手配など次なる作業が控えているため、名義変更に二の足を踏む人が多いのが実情です。
2.なぜ空き家が売れないのか
(1)立地環境が悪く需要がない
空き家の売却が進まない大きな要因の一つに、立地環境の悪さがあります。立地環境が悪ければ、購入を希望する需要そのものが低くなってしまうのです。
具体的には、以下のような場所に位置する空き家は売れにくい傾向にあります。
- 人口減少が進む地方の過疎地域
- 交通の便が悪く、日常生活に不便が多い地域
- 高齢化が進み、買い手となる若年層が少ない地域
地域区分 | 空き家率 |
---|---|
三大都市圏 | 13.1% |
地方中核市 | 15.0% |
その他の市町村 | 16.0% |
(出典:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」)
上記のように、地方ほど空き家率が高く、立地環境の悪さが要因の一つと考えられています。
立地環境が悪い空き家を売却するには、用途を変更して事務所や店舗として利用するなど、柔軟な対応が求められます。そのためには、周辺地域の需要動向を把握し、適切な売却価格を設定することが重要となるのです。
(2)老朽化が進み、住める状態でない
空き家を売却する際の大きな障壁の一つが、老朽化による住宅の劣化です。長年放置された空き家は、雨漏りや傷みが進行し、安全に住めない状態になっていることが多々あります。
具体的には以下のような損傷が見られます。
- 屋根や外壁のひび割れ、腐食
- 床や壁の傷み、ねずみ穴
- 水廻りの劣化(排水管の詰まり、水漏れなど)
- 設備の老朽化(電気、ガス、給排水設備など)
このような劣化が著しい空き家は、そのままでは売買が難しく、買主は見つかりません。劣化の程度によっては、解体費用を売却額が上回ってしまうリスクもあり、空き家所有者が売却を見送る一因となっています。
一方で、ある程度手を入れれば売却可能な空き家もあります。専門家に修繕箇所と概算費用を確認し、リフォーム費用を見積もることで、売却へ向けた判断ができるでしょう。
(3)権利関係が複雑すぎて取引が難しい
空き家の売却や賃貸が難航する大きな理由に、権利関係の複雑さがあります。
権利関係の例 | 説明 |
---|---|
相続人が複数いる | 全員の同意が必要になる |
借地権が設定されている | 土地所有者の承諾が必要 |
抵当権が設定されている | 債権者の承諾が必要 |
このように、単純な所有権だけでなく、相続人や借地権者、債権者など、複数の権利者がいる場合が多くあります。全員の同意を得ずに売却や賃貸をすると、後々トラブルに発展する可能性があります。
また、相続放棄や行方不明者など、権利者の所在が分からない場合も珍しくありません。そうした場合、権利関係を明確にするのは容易ではありません。
つまり、空き家の権利関係が複雑であるほど、取引は難しくなるのです。取引を円滑に進めるには、事前に権利関係を整理し、権利者全員の同意を得ることが不可欠となります。
3.空き家を賢く処分するには
(1)売却と賃貸の両面から検討する
空き家を処分する際は、売却と賃貸の両面から検討するのが賢明です。
売却する場合、査定を受け適正な価格で売却することが重要です。リフォームすれば価格は上がりますが、費用対効果を見極める必要があります。
一方で賃貸も選択肢の一つです。老朽化が進んでいても賃貸なら一定の収入が得られ、将来の売却に備えられます。立地環境や周辺の賃貸需要を踏まえ、賃貸業者に相談しましょう。
売却メリット | 売却デメリット |
---|---|
一括で現金化可能 | 価格が思わしくない場合がある |
管理の手間が無くなる | リフォーム費用がかかる場合がある |
賃貸メリット | 賃貸デメリット |
---|---|
収入が得られる | 入居者の管理が必要 |
売却に備えられる | 空室リスクがある |
このように、売却と賃貸にはそれぞれメリット・デメリットがあります。物件の状況や立地環境、自身の事情に合わせて、両面から検討することが大切です。
(2)専門業者に一括して任せる
空き家の売却や処分に関しては、専門の業者に一括して依頼することをおすすめします。 専門業者には以下のようなメリットがあります。
- 不動産の売買に詳しく、適正な価格での売却が期待できる
- 立地や権利関係などを勘案した最適な処分方法を提案してくれる
- 買主の掘り起こしから価格交渉、物件の現状確認から契約手続きまでを一括して請け負ってくれる
- 家財の処分や遺品整理なども併せて依頼できる
一方で、手数料が発生することが主なデメリットです。 費用は物件の価格次第ですが、一般的には以下の水準となります。
売買価格 | 手数料(目安) |
---|---|
500万円以下 | 5%~10%程度 |
500万円超~1,000万円 | 3%~5%程度 |
1,000万円超 | 3%程度 |
このように手数料率は売買価格が高くなるほど低くなる傾向にあります。 事前にいくつかの業者から見積りを取ることで、適正な手数料水準を知ることができます。
(3)行政の支援制度を上手く利用する
空き家の処分には費用が掛かるため、できるだけ行政の支援制度を利用することをおすすめします。
多くの自治体では、以下のような支援制度を用意しています。
支援制度の例 | 内容 |
---|---|
解体費用の一部補助 | 危険な空き家の解体費用の一部を補助 |
利子補給制度 | 空き家の改修費用に係る融資の利子の一部を補助 |
相談窓口の設置 | 空き家の利活用・処分に関する相談に応じる |
また、空き家バンクなどを通じて、希望者に空き家を売却したり賃貸したりする仲介を行う自治体もあります。さらに、空き家の実態調査や所有者の特定作業を進めている自治体もあり、空き家問題への対策が進んでいます。
利用できる支援制度は自治体によって異なりますので、まずは最寄りの自治体の窓口に相談することが重要です。制度を上手く利用すれば、空き家の適切な処分や有効活用が可能となります。
4.空き家問題の解決に向けて
早期の権利移転と適切な管理が不可欠
空き家問題の解決には、早期の権利移転と適切な管理が不可欠です。権利関係が複雑な場合は、相続放棄や権利関係の整理が先決となります。遺産分割協議を行い、共有者全員の合意を得ることが重要です。
次に管理体制を整備します。遠方に空き家がある場合は、地元の業者に管理を委託するのがよいでしょう。定期的な点検と適切な修繕を行い、防犯・防災対策も怠りません。
管理に必要な事項 | 具体例 |
---|---|
建物の安全点検 | 老朽箇所の特定、補修工事 |
環境対策 | 除草、ごみ撤去 |
防犯対策 | 施錠、監視カメラ設置 |
防災対策 | 耐震補強、消火設備の設置 |
このように、権利関係の整理と適切な管理を行うことで、空き家の有効活用や適正な処分につなげることができます。
地域全体で取り組む体制づくりが急務
空き家問題の解決に向けて、地域全体で取り組む体制づくりが急務です。行政、不動産業者、住民が一体となって対策を講じることが重要になります。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
取り組み内容 | 詳細 |
---|---|
空き家の実態把握 | 定期的な調査を実施し、空き家の所在、管理状況等を把握する |
所有者への働きかけ | 適切な管理や利活用を促すため、所有者へ助言や指導を行う |
地域住民の協力 | 空き家の見守りや通報など、地域ぐるみでの取り組みを促進する |
専門家の活用 | 空き家の権利調整や売買の専門家を地域に配置する |
助成制度の活用 | 国や自治体の空き家対策に関する助成制度を上手く利用する |
このように、地域ぐるみでの取り組みが不可欠です。空き家所有者への丁寧な説明や、地域住民の理解と協力を得ながら、着実に空き家の利活用や除却を進めていくことが求められます。