空き家の定義とは?「特定空き家」との違いや問題点、対策をわかりやすく解説

1. はじめに:増え続ける空き家の現状と課題

日本における空き家の数は年々増加の一途をたどっています。総務省統計局の「住宅・土地統計調査」によると、2018年の空き家数は849万戸と総住宅数の13.6%を占め、過去最多を更新しました。

年次総住宅数(万戸)空き家数(万戸)空き家率(%)
2008年5,75775713.1
2013年6,06382013.5
2018年6,24284913.6

出典:総務省統計局「住宅・土地統計調査」

空き家の増加は、少子高齢化や人口減少といった社会構造の変化や、新築住宅の供給過剰といった要因が複雑に絡み合って生じていると考えられています。

このまま放置すれば、景観の悪化や治安の低下、防災上のリスクなど、様々な問題を引き起こす可能性があります。空き家問題への対策は、もはや避けて通れない重要な課題となっています。

この章では、空き家の定義や種類、空き家問題がもたらす影響、そして有効な対策について詳しく解説していきます。

2. 空き家の定義とは?

法律上の定義:空き家等対策特別措置法

空き家の増加は、景観の悪化や防犯上のリスク増加など、様々な社会問題を引き起こしています。 そこで、2015年2月に施行されたのが「空き家等対策の推進に関する特別措置法」、通称「空き家対策特別措置法」です。

この法律では、空き家を以下のように定義しています。

用語定義
空き家建物のうち居住その他の使用がなされていないことが常態であるものとして、国土交通省令で定めるもの。
特定空き家空き家のうち、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態その他の周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められるもので、国土交通省令で定めるもの。

つまり、法律上は「居住その他の使用がなされていないことが常態である建物」が空き家と定義されています。 ただし、この定義はあくまで目安であり、建物の用途や周辺の状況によって判断が変わる場合もある点に注意が必要です。

統計上の定義:住宅・土地統計調査

法律上の定義とは別に、国が5年に一度実施している「住宅・土地統計調査」では、以下のような住宅を「空き家」と定義しています。

要件説明
居住世帯がいない調査日時点で人が住んでいない住宅のことです。
二次的住宅(別荘など)ではない別荘や保養所など、一時的な滞在を目的とした住宅は含まれません。
建物の建て替えなどではない解体予定の住宅や、建て替えのために一時的に居住していない住宅は含まれません。

調査員が住宅を訪問し、実際に居住しているかを確認する調査方法がとられています。

注意点として、これらの定義はあくまで統計上のものなので、実態に合わせた判断が必要となる場合があります。例えば、一時的に海外赴任している場合などは、統計上は「空き家」とカウントされる可能性がありますが、実際には居住の意思があるケースも考えられます。

注意点:定義はあくまで目安、実態に合わせた判断が必要

空き家の定義は、法律や統計調査によって定められていますが、あくまで目安として捉えるべきです。なぜなら、建物の状況や利用状況は千差万別であり、定義に当てはまらなくても、実態として空き家と判断される場合もあるからです。

項目具体的な例
定期的な訪問・管理・別荘として年に数回利用
・親族が定期的に訪れて管理
将来的な利用予定・リフォーム予定の住宅
・相続したものの、活用方法を検討中

上記のように、一時的に人が住んでいないだけで、将来的に利用する予定がある場合などは、空き家とみなされないケースもあります。重要なのは、それぞれの状況に応じて、総合的に判断することです。空き家かどうか迷う場合は、自治体や専門家に相談することをおすすめします。

3. 空き家と特定空き家の違い

特定空き家とは?:放置により周囲に悪影響を及ぼす可能性のある空き家

空き家の中には、放置されることで周囲に悪影響を及ぼす可能性のある空き家が存在します。 このような空き家は、「特定空き家」に指定される可能性があります。

特定空き家とは、そのまま放置しておくと、

  • 倒壊のおそれ
  • 火災発生のおそれ
  • 犯罪の発生のおそれ など、周辺の生活環境に悪影響を及ぼす可能性があると判断された空き家のことを指します。

具体的には、以下のような状態の空き家が「特定空き家」に該当する可能性があります。

状態
建物の老朽化が著しい屋根や外壁が崩落寸前、柱や梁が腐食している
長期間にわたり適切な管理が行われていない庭木の繁茂、ゴミの堆積、ネズミや害虫の発生が見られる
周辺で犯罪やトラブルが発生している空き家を隠れ蓑にした犯罪、不法侵入、放火などが発生している

特定空き家は、放置された空き家の中でも、特に周囲への影響が大きいことから、行政による指導や命令の対象となり、場合によっては、税制優遇の取消や罰則が適用されることもあります。

特定空き家と空き家の違い:管理状態の悪化度合い

空き家と特定空き家の大きな違いは、管理状態の悪化度合いです。 特定空き家は、単に人が住んでいない状態というだけでなく、周囲に悪影響を及ぼす可能性がある状態の空き家を指します。

区分状態
空き家・人が住んでいない状態
・適切に管理されている場合もあれば、管理が不十分な場合もある
特定空き家・著しく管理が不十分な空き家
・具体的には、倒壊、屋根の破損、雑草の繁茂などが見られ、周囲に悪影響を及ぼす可能性が高い状態

つまり、すべての空き家が特定空き家になるわけではありません。 空き家の状態が悪化し、放置することによって周囲に悪影響を及ぼす可能性が出てきた段階で、特定空き家とみなされる可能性があります。

特定空き家に指定されるとどうなる?:行政からの指導・命令、税制優遇の取消など

空き家が「特定空き家」に指定されると、所有者は様々なペナルティを受ける可能性があります。

行政からの指導や命令は、状況に応じて段階的に強化されます。

段階内容
助言問題点の指摘や改善のアドバイス
指導書面による改善の指示
命令期日までに改善を行わない場合の強制執行

また、特定空き家に指定されると、固定資産税の優遇措置が受けられなくなるなど、経済的な負担も大きくなります。

優遇措置内容
固定資産税の減額住宅用地の特例が適用されなくなり、更地の最大6倍の税率が課される可能性も

このように、特定空き家に指定されると、所有者にとって大きな不利益が生じるため、空き家の管理には十分注意する必要があります。

4. 空き家問題が引き起こす問題点

景観の悪化、治安の低下

放置された空き家は、劣化が進むことで景観を損ね、治安悪化の要因ともなりかねません。

問題点詳細
景観の悪化– 雑草の繁茂
– 外壁の剥がれ落ち
– 窓ガラスの破損など
治安の低下– 不法侵入や犯罪の温床
– 放火のリスク増加
– 周辺住民の不安感の高まり

朽ちた空き家は、地域の美観を損なうだけでなく、犯罪に利用される可能性も高まります。また、このような状況は、周辺住民に不安感を与え、コミュニティ全体の活力を低下させてしまうことにもつながります。

防犯上のリスク増加

空き家は、適切に管理されていない場合、犯罪に利用されるリスクが高まります。

リスク説明
不法侵入・占拠のリスク増加空き家は、人の出入りが少ないため、不法侵入や占拠の対象になりやすいです。
放火のリスク増加放置された可燃物が火災の原因となる可能性があります。また、放火犯にとっても人目につきにくいという点で、空き家は格好の標的になり得ます。
犯罪の温床となるリスク空き家が犯罪者の隠れ家や犯罪の計画場所として利用される可能性があります。
周辺の防犯意識の低下空き家の存在は、周囲の住民に不安感を与え、防犯意識の低下につながる可能性があります。

空き家の周辺で犯罪が増加すると、地域住民の生活の安全が脅かされるだけでなく、地域のイメージダウンにもつながりかねません。空き家を放置することは、所有者だけでなく、地域社会全体にとっても大きなリスクとなることを認識する必要があります。

衛生環境の悪化

放置された空き家は、私たちの健康や生活環境に悪影響を与える可能性があります。具体的には、次のような問題点が挙げられます。

問題点詳細
害虫の発生ゴキブリ、ネズミ、シロアリなどの害虫が繁殖し、周囲の住宅にまで被害が拡大する可能性があります。
悪臭の発生腐敗した食品やゴミ、動物の死骸などから悪臭が発生し、周辺住民の生活環境を悪化させる可能性があります。
植栽の繁茂庭木や雑草が伸び放題になり、害虫の発生源となったり、景観を損ねたりする可能性があります。
不法投棄空き家が不法投棄の温床となり、景観の悪化や衛生環境の低下につながる可能性があります。

これらの問題は、周辺住民の健康被害や生活の質の低下につながる可能性があります。空き家を放置することは、決して他人事ではありません。適切な管理を行い、衛生環境の悪化を防ぐことが重要です。

地域コミュニティの衰退

空き家は、地域のつながりを弱体化させ、コミュニティの衰退を招く一因となります。

現象説明
住民間の交流の減少空き家の増加に伴い、地域住民が減少することで、住民同士の交流の機会が失われていきます。
地域活動への参加率低下地域活動の担い手不足や、空き家周辺の環境悪化による活動意欲の低下などが考えられます。
防犯意識の低下空き家の増加は、周囲の住民に不安感を与え、地域全体の防犯意識の低下につながる可能性があります。

これらの要因が重なることで、地域の一体感が失われ、コミュニティとしての機能が低下していく可能性があります。結果として、地域の活力が失われ、さらなる空き家の増加を招くという悪循環に陥ることも懸念されます。

所有者不明化による管理の困難さ

空き家の所有者が長期間判明しない、または相続人が放置しているなど、所有者不明化が進むケースも問題です。

所有者不明化で起こる問題具体的な内容
管理責任の所在が不明確適切な管理が行われず、建物の老朽化が加速
相続人が多数存在する場合遺産分割協議がまとまらず、空き家の状態が放置
所在不明の相続人がいる場合相続人の調査や手続きに時間と費用がかかり、解決が困難

これらの要因が重なることで、空き家の適切な管理が行き届かず、周囲の環境や防災上のリスクが高まる可能性があります。また、固定資産税の滞納や不法占拠などの問題も発生しやすくなります。状態が悪化する前に、所有者や関係者は早急な対応が必要です。

5. 空き家問題への対策

空き家の活用方法:売却、賃貸、リフォーム、解体など

空き家を放置しておくことは、様々な問題を引き起こす可能性があります。 そこで重要になるのが、空き家をどのように活用するかという点です。 所有者の状況や希望、空き家の状態によって最適な活用方法は異なります。 主な活用方法としては、以下のようなものがあります。

方法メリットデメリット
売却現金化できる、管理の負担がなくなる売却価格が希望に沿わない場合がある、買い手が見つからない場合がある
賃貸定期的な収入を得られる、空き家の維持管理に役立つ入居者とのトラブル、空室リスクがある
リフォーム自分たちの住まいにできる、資産価値を高められるある程度の費用がかかる
解体更地にすることで売却しやすくなる、固定資産税の負担軽減解体費用がかかる

それぞれの方法にはメリット・デメリットが存在するため、 ご自身の状況や希望に合わせて、最適な方法を選択することが重要です。

行政による支援制度:補助金、税制優遇など

空き家問題の解決に向けて、各自治体では様々な支援制度を設けています。

例えば、空き家の活用や処分を検討している所有者に対して、以下のような補助金や税制優遇措置が用意されている場合があります。

制度の種類内容例
補助金・耐震改修費用の一部補助
・バリアフリー化工事費用の一部補助
・解体費用の一部補助
税制優遇・不動産取得税の減額
・登録免許税の減額

これらの制度は各自治体によって内容が異なるため、お住まいの地域の自治体へ問い合わせてみましょう。

専門家への相談:不動産会社、建築会社、弁護士など

空き家問題を解決するには、専門家の力を借りることも有効です。

専門家相談内容例
不動産会社空き家の売却、賃貸、管理
建築会社空き家のリフォーム、解体、リノベーション
弁護士相続や境界線に関するトラブル、空き家に関する法律問題

例えば、空き家を売却・賃貸したい場合は不動産会社に、リフォームや解体を検討している場合は建築会社に相談するのが良いでしょう。また、相続や境界線に関するトラブル、空き家に関する法律問題が生じた場合は、弁護士に相談することで、適切なアドバイスを受けることができます。

空き家問題は複雑で、専門知識が必要となるケースも少なくありません。一人で抱え込まず、専門家に相談することで、問題解決への糸口が見つかるはずです。

6. まとめ:空き家問題は他人事ではない、早めの対策を

空き家問題は、ひとごとではありません。 自分は関係ないと思わず、まずは空き家に関する正しい知識を持ち、早めに対策を検討することが大切です。

対策説明
売却空き家を売却することで、管理の手間や固定資産税の負担をなくすことができます。
賃貸空き家を賃貸に出すことで、家賃収入を得ることができます。
リフォーム空き家をリフォームすることで、自分自身や家族が住むための住宅として活用したり、賃貸物件としての価値を高めたりすることができます。
解体空き家を解体することで、更地にして売却したり、新たな建物を建築したりすることができます。

空き家問題は、放置すると、周囲に悪影響を及ぼす可能性があります。 問題が深刻化する前に、早めに対処しましょう。