1. 相続した家の売却と税金:基礎知識
– 1-1. なぜ税金が発生するのか?
相続した家を売却して利益が出た場合、なぜ税金が発生するのでしょうか?それは、その利益が所得とみなされるからです。
家は、私たちが生活していく上で欠かせない「財産」です。財産を売却して利益を得ると、それは所得とみなされ、税金が課されます。
行為 | 税金の種類 | 対象 |
---|---|---|
家の売却 | 譲渡所得税 | 売却益 |
つまり、相続した家を売却して得た利益(売却益)に対して、「譲渡所得税」という税金が課されるのです。この点は、相続したものであっても、そうでなくても同じです。
次のセクションでは、譲渡所得税について詳しく解説していきます。
– 1-2. 売却益にかかる税金:「譲渡所得税」とは
相続した家などの不動産を売却して利益が出た場合、「譲渡所得税」という税金が課税されます。
このとき、利益となる「譲渡所得」は、売却価格から取得費と売却費用を差し引いた金額で計算されます。
項目 | 説明 |
---|---|
売却価格 | 不動産を売却して得た金額 |
取得費 | 相続した不動産の取得にかかった費用 (後述します) |
売却費用 | 仲介手数料や印紙税など、売却時にかかった費用 |
なお、取得費は、相続税の申告時に計算した相続税評価額が適用されます。
2. 発生する税金の種類と計算方法
– 2-1. 譲渡所得税
– 2-1-1. 税率と控除額
譲渡所得税は、所得税と住民税から成り、それぞれで税率が異なります。
区分 | 税率 |
---|---|
所得税 | 15%(所得金額4,000万円超は20%) |
住民税 | 5% |
つまり、合計すると20%(所得金額4,000万円超は25%)が譲渡所得税の税率となります。
ただし、所得税には控除額があり、所有期間が5年超の場合は100万円、5年以下の場合は50万円を所得から差し引くことができます。この控除額は売却益が控除額を下回る場合、譲渡所得税はかかりません。
なお、住民税には控除額はありません。
– 2-1-2. 所有期間による違い(短期所有・長期所有)
譲渡所得税は、所有期間が5年以下であるか、5年以上であるかによって税率が変わります。
所有期間が5年以下の場合は「短期所有」、5年を超える場合は「長期所有」となり、それぞれ税率が異なります。
所有期間 | 区分 | 税率(所得税・住民税の合計) |
---|---|---|
5年以下 | 短期所有 | 39% |
5超 | 長期所有 | 20% |
このように、短期所有の場合、長期所有の場合に比べて高い税率が適用されます。
相続した家を売却する際には、この所有期間による税率の違いを理解しておくことが重要です。
– 2-2. 取得費加算の特例
相続した家の売却では、取得費がいくらか算出できるかによって税金の負担額が変わってきます。
取得費とは、売却する資産を取得するためにかかった費用のことで、譲渡所得の計算上、売却価格から控除することができます。
一般的に、相続した不動産の取得費は、被相続人が取得したときの価格が基礎となります。
しかし、被相続人が亡くなってから長い年月が経過していると、取得時価格の資料が残っていないケースも少なくありません。
このような場合に利用できるのが、「取得費加算の特例」です。
この特例を使うと、一定の要件を満たせば、相続税評価額の一定割合を取得費として算入できます。
条件 | 取得費に加算できる金額 |
---|---|
相続開始日が平成28年4月1日以後である場合 | 相続税評価額 × 3% |
相続開始日が平成28年3月31日以前である場合 | 相続税評価額 × (3% + 1.5% × n ) (nは相続開始日から譲渡までの年数) |
この特例を活用することで、取得費が大きくなり、その結果として譲渡所得税の負担を軽減できる可能性があります。
– 2-3. その他にかかる税金
譲渡所得税以外にも、相続した家を売却する際には以下の税金が発生する可能性があります。
税金の種類 | 内容 | 課税の有無 |
---|---|---|
不動産取得税 | 不動産を取得した際に課される税金 | 課税されない |
登録免許税 | 所有権移転登記をする際に課される税金 | 課税される |
印紙税 | 売買契約書を作成する際に課される税金 | 課税される |
不動産取得税は、相続によって家を「取得」したタイミングでは発生しません。ただし、売却後に取得した人が居住目的以外(賃貸など)で利用する場合は、課税対象となる可能性があります。
登録免許税は、売却に伴い所有権を買い主へ移転する登記手続きが必要となるため、売却価格に応じて課税されます。
また、売買契約書を作成する際には、収入印紙を貼付する必要があるため印紙税もかかります。
これらの税金は、譲渡所得税と比較すると少額ですが、事前に把握しておくことが重要です。
3. 税負担を軽減するための特例措置
– 3-1. 3,000万円特別控除
– 3-1-1. 要件と適用範囲
3,000万円特別控除を受けるためには、いくつかの要件を満たしている必要があります。
要件 | 内容 |
---|---|
相続した年の翌年から3年以内の売却 | 相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売却すること |
相続開始直前において被相続人の所有期間が10年以下 | 被相続人が亡くなる10年前よりも前に取得した家であること |
親族への売却ではないこと | 買主が配偶者や親族でないこと(2親等以内の親族、および配偶者の2親等以内の親族を含む) |
これらの要件をすべて満たす場合に限り、3,000万円特別控除を適用できます。
特に、相続した家を親族に売却する場合には、この特例は適用できませんので注意が必要です。
– 3-1-2. 利用時の注意点
3,000万円特別控除は、適用を受けるための条件や注意すべき点がいくつかあります。
要件・注意点 | 内容 |
---|---|
相続の開始と家の取得時期 | 相続開始から3年以内に売却した家であること |
売却する人 | 相続人で、かつ被相続人と生計を一つにしていなかったこと |
家の種類 | 区分マンションなども対象 |
適用回数 | 1回のみ |
例えば、相続開始から5年後に家を売却する場合には、この特例は適用されません。また、相続した家を賃貸に出した後、売却する場合には、賃貸期間中は適用条件を満たさない可能性があります。
さらに、相続した家が複数ある場合でも、適用できるのは1つの家のみです。どの家を売却するかによって、適用できる特例が変わってくる可能性もありますので注意が必要です。
– 3-2. 居住用財産の3,000万円特別控除との選択
相続した家を売却する際に適用できる特例は、「3,000万円特別控除」だけではありません。相続した家が「居住用財産」に該当する場合は、「居住用財産の3,000万円特別控除」も選択肢に上がります。どちらの特例も控除額は3,000万円ですが、適用条件や特長の異なる2つの制度から、自身に有利な方を選択する必要があります。
特例 | 適用条件 | 特長 |
---|---|---|
3,000万円特別控除 | 相続した家を取得してから3年目の年末までに売却すること | ・相続した人が被相続人の居住の用に供していたかどうかは問われない ・空き家でも適用可能 |
居住用財産の3,000万円特別控除 | 相続した家が被相続人の居住の用に供されていたこと、かつ、相続人が相続開始の年から3年目の年末までその家に居住していること | ・相続開始の年から3年目の年末までに売却する必要はない ・所有期間が10年超の長期譲渡所得の場合、税率が軽減される |
どちらの特例を選択するべきかは、個々の状況によって異なります。どちらの特例が適用できるのか、どちらの特例を適用するのが有利なのか、事前にしっかりと検討しましょう。
– 3-3. その他の特例
3,000万円特別控除以外にも、特定の条件を満たせば利用できる特例措置が存在します。
特例名 | 内容 |
---|---|
災害減免法による減免 | 震災等で被災した家屋を売却した場合、譲渡所得税が減免される |
特定居住用財産の買換え特例 | 相続した家を売却して、一定期間内に新たに居住用の家屋を購入する場合、譲渡益の一定額が控除される |
収用等の場合の特例 | 公共事業のため、やむを得ず土地を売却する際に譲渡所得税の負担を軽減する特例 |
上記はあくまで一部であり、適用条件などもそれぞれ異なります。ご自身の状況に合わせて、どの特例措置が利用できるのか、事前にしっかりと確認することが重要です。
4. 相続した家を売却する際の注意点
– 4-1. 売却時期の検討
相続した家の売却時期によって、税負担が大きく変わる可能性があります。
区分 | 所有期間 | 税率 |
---|---|---|
短期所有 | 1年以内 | 39.63% |
長期所有 | 1年超 | 20.315% |
上記表の通り、所有期間が1年以内か1年超かで、譲渡所得税の税率が変わってきます。
そのため、売却を急ぐあまり短期所有で売却してしまうと、税負担が大きくなってしまう可能性があります。
特に、相続してから間もない時期に高値で売却できる場合でも、税金を考慮すると、売却を待つ方が結果的に有利になるケースもあるでしょう。
また、所有期間が5年を超えると、一定の要件を満たせば譲渡所得の控除が受けられる特例もあります。
このように、売却時期によって適用できる特例や税率が異なるため、事前に十分に検討することが重要です。
– 4-2. 不動産会社選びの重要性
相続した不動産の売却は、通常の不動産売却よりも複雑な手続きや専門知識を要することがあります。そのため、不動産会社選びは慎重に行う必要があります。適切な不動産会社を選ぶことで、売却活動がスムーズに進み、より有利な条件で売却できる可能性が高まります。
選定基準 | 詳細 |
---|---|
相続不動産の取引実績 | 多くの相続物件を取り扱ってきた実績がある会社は、手続きや税金面にも精通している可能性が高いです。 |
地域密着性 | 地域に密着した会社は、地元の不動産相場や顧客に詳しく、より的確な査定や売却活動が期待できます。 |
サポート体制 | 相続に関する相談や手続きのサポート体制が充実している会社を選ぶと安心です。 |
複数の不動産会社に査定を依頼し、比較検討することも重要です。信頼できる不動産会社を見つけることが、相続した家をスムーズに売却するための鍵となります。
– 4-3. 専門家への相談
相続した家の売却は、高額な取引になるため、税金や法律に関する専門知識が必要になります。そのため、下記のような専門家への相談が有効です。
専門家 | 相談内容例 |
---|---|
税理士 | ・相続税や譲渡所得税の計算 ・税務申告手続きのサポート ・節税対策の提案 |
不動産鑑定士 | ・相続した不動産の評価額の算出 |
司法書士 | ・相続登記手続きのサポート |
不動産会社 | ・不動産売却に関する知識や経験に基づいたアドバイス ・売却戦略の立案、販売活動の実施、売買契約締結のサポート |
これらの専門家は、それぞれの専門知識を活かして、相続した家の売却をスムーズに進めるためのサポートをしてくれます。特に、税理士は、複雑な税制に関するアドバイスや節税対策の提案をしてくれるため、ぜひ相談するようにしましょう。
専門家への相談は費用がかかりますが、結果的に税負担を軽減できたり、トラブルを回避できる可能性があります。
早いうちから専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることで、安心して相続した家の売却を進めることができます。
5. まとめ:早めの準備と専門家への相談で税負担を軽減
相続した家の売却は、様々な税金や特例措置、手続きが関係してきます。そのため、早めの準備と専門家への相談が、税負担を軽減する上で非常に重要になります。
専門家 | 相談内容例 |
---|---|
税理士 | ・相続税や譲渡所得税の計算 ・各種特例措置の適用可否の判断 ・税務申告手続きのサポート |
不動産会社 | ・不動産の査定・売却活動 ・売買契約手続きのサポート |
司法書士 | ・相続登記手続きのサポート |
まずは、相続した家の状況やご自身の希望を整理し、必要な情報を収集しましょう。そして、税理士や不動産会社などの専門家に相談することで、最適な売却方法や節税対策を見つけることができます。専門家のアドバイスを受けることで、安心して手続きを進めることができるでしょう。